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札幌高等裁判所函館支部 昭和28年(う)45号 判決 1953年6月02日

控訴人 被告人 木村又之丞

弁護人 土家建太郎

検察官 後藤範之

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人土家建太郎の控訴趣意は同人提出の別紙控訴趣意書に記載のとおりである。

弁護人の控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤)について

弁護人主張の要旨は公職選挙法第八十九条には選挙運動に関する寄附及びその他の収入の報告書提出期間の定めがあり同法第百九十一条には出納責任者は右報告書提出の日から二年間会計帳簿、明細書及び領収書その他支出を証すべき書面の保存義務のあることを規定している点からして、同法第百八十五条の会計帳簿の記入は必ずしも寄附金を受領の都度所定の記入を要求しているものではなく右報告書提出期間内に記入すれば足りる。しかるに原判決がその都度記入しなかつた一事をもつて有罪と認定処断したのは法令の解釈適用を誤つた違法があるというのである。そこで公職選挙法第百八十五条にいわゆる会計帳簿に所定事項の記載時期につき按ずるに同法第百八十九条の期間は同法第百八十五条第一項各号に掲げる事項を記載した報告書の提出期間を定めたものであり同法第百八十五条は右報告書の基礎資料となるべきものの記載を命じたものであり自らその目的を異にし同一に論ずることはできないものであるのみならず選挙費用の収支は選挙法上重要事項であつて、その性質上正確を期することを要するものであり、同法第百八十六条には出納責任者以外の者で公職の候補者のために選挙運動に関する寄附を受けたものは、寄附を受けた日から七日以内に、寄附をした者の氏名、住所及び職業並びに寄附の金額及び年月日を記載した明細書を出納責任者に提出しなければならない。但し、出納責任者の請求があるときは直ちに提出しなければならない。前項の寄附で当該候補者が立候補の届出前に受けたものについては、立候補の届出後直ちに出納責任者にその明細書を提出しなければならない。と規定し、寄附を受けた出納責任者以外の者及び候補者の出納責任者えの明細書提出時期を定めていること、更に同法第百八十七条第二項には、立候補準備のために要した支出で公職の候補者若しくは出納責任者となつた者が支出し又は他の者がその者と意思を通じて支出したものについては、出納責任者は、その就任後直ちに当該候補者又は支出者につきその精算をしなければならない。と規定し、立候補準備に要した支出につきその精算時期を定めていること並に同法施行規則第二十二条には、法第百八十五条の規定による会計帳簿はその種類を左の通りとし、別記第三十号様式に準じて作成しなければならない。と規定し、会計帳簿の種類を、収入簿と支出簿に定め右第三十号様式によると、収入簿に一定の様式を定めその備考4に寄附の中金銭物品その他の財産上の利益の供与又は交付の約束は、その約束の日の現在において記載するものとし、その旨並びにその履行の有無及び年月日等を「備考」欄に記載するものとする。との記載のあること等を綜合すると同法第百八十五条にいわゆる会計帳簿に所定事項の記載時期は出納責任者の記入可能の時遅滞なく記入を要する法意と解すべきである。本件において原判決挙示の証拠によると、被告人は昭和二十七年九月五日出納責任者に選任されて就任したもので、同年九月十五日頃及び同月十八日頃、同月二十三日頃の三回に亘り原判示事実のとおり寄附金を受領し、被告人は殆ど一日に一回は選挙事務所に行つていたので右受領の時から何時にても寄附金を収入簿に記入し得られる状態にあつたことが認められるのであつて、原審証人平塚正三の証言によると少くとも昭和二十七年十月二日まで被告人が収入簿に当該寄附金の記入をしなかつたことが明かであるから原判決が公職選挙法第百八十五条、第二百四十六条第二号に問擬したのは相当であつて原判決には法令の解釈適用を誤つた違法はない。論旨は採用し得ない。

同第二点(量刑不当)について

本件記録及び原裁判所で取調べた証拠により認められる、本件犯行の態様その他諸般の事情を綜合すると所論を考慮に容れても原判決の量刑が不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 原和雄 判事 成智寿朗 判事 松永信和)

弁護人土家健太郎の控訴趣意

一、原判決は法令の解釈を誤りたる違法があるものと信ずる。

原判決は被告人が陣中見舞を法定の会計帳簿に其の受領の都度直に記入しなかつたことが公職選挙法第百八十五条に依り違反であると有罪を認定せられたが、同法第百八十九条には収支の報告書提出期間が定められてあり、同法第百九十一条には選管の二年間保存義務が認められある点からして必ずしも其の受領の都度所定の会計帳簿の記入を要求しているものでないと解せらるるに依り原判決が其の都度直に記入しなかつた一事を以て有罪と認定したのは失当であると信ずる。

二、仮に有罪なりとするも原判決は刑の量定重きに過ぎ破棄せらるべきものと信ずる。

即ち、証人平塚正三、被告人の供述並記録第九〇丁乃至第九九丁点綴の選挙運動員用収支報告書に依れば被告人及其の補助者たりし平塚正三は公職選挙法第百八十九条、同法第百九十一条に徴し、本件陣中見舞は報告書提出期間内たる選挙終了後十五日以内に収支会計帳簿を整備し収支報告書を提出すれば良いもので法は必ずしも法定の会計帳簿に受領の都度直に記入を命じているものではないと法規の解釈を誤り其の都度直に会計帳簿に記入しなかつたが適法に十一月十五日迄に会計帳簿に収支報告書を提出している事実を考へるときは本件は軽微な違反と思料せらるるにつき原判決は其の科刑重きに過ぎるものと信ずる。

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